2009年04月10日

「俺の妹(3)」発売記念 伏見つかさ先生インタビュー -後編-

ラノベファンのみならず、ネット各所にもますます話題沸騰のライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』[著・伏見つかさ イラスト・かんざきひろ 電撃文庫](以下『俺の妹』)。第三巻発売記念として著者の伏見つかさ先生へインタビュー。今回も、物語の核心部分に触れるネタバレがあります。『俺の妹』第三巻を読了された後にお読みください。

#ネタバレ注意

このインタビューには、俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の核心部分に触れるネタバレがあります。 第三巻を読了された後にお読みください。
俺の妹(3)発売記念 伏見つかさ先生インタビュー前半はこちら


■麻奈実編は、第二章だけで読み進めていける「麻奈実ルート」という楽しみ方もできます

かーず:第三巻は黒猫の二次創作の動機や沙織・バジーナの思いがけない一言(「バジーナをやっていた甲斐があったでござる。」)など、彼女たちがますますミステリアスに映ります。

伏見つかさ先生(以下、伏見):ネット上で知り合った友達の私生活って謎に包まれていますよね。それが次第に仲良くなって内面や私生活が分かってくると、そこが面白く感じてくるんです。黒猫や沙織・バジーナは京介とも仲良くなっているけれども、実は本名すら知らない。そういう関係ってリアルですし、「この娘、普段どんな生活をしてるんだろう?」と興味が惹かれますよね。そんな謎に包まれた彼女たちの私生活が明かされる展開って面白いなあと。今巻では黒猫の隠されていた一面を少し明かしました。このあたり次巻以降もご期待ください。

かーず:一方、京介のリアルな人間関係としては田村麻奈実のじいさんが面白かったです。

伏見:年配のギャグキャラはとても好きなので、楽しんで書きました。編集さんからも、じいさん関連のネタはたくさん出たんですよ。

三木一馬さん(伏見先生の担当編集者。以下、三木):じいさんの『可愛さ自慢』合戦しましたね(笑)。

小原一哲さん(伏見先生の担当編集者。以下、小原):二巻でちょっとやり過ぎたかなと心配したんですが、ドリフのバカ兄弟的なノリが、読者の方には新鮮に映ったようです。というわけで、三巻ではそのノリがさらにハジけています(汗)。ロックも名脇役としていいアクセントになっていると思います。

三木:ロックは便利なキャラですから。きっと今後、「あんちゃん、これ何~?」って言って麻奈実のブラジャーを京介のところに持ってきたりするとか。

伏見:どんなシチュエーションなんですか!

一同爆笑

三木:いや~便利キャラですね。

かーず:編集さんとの打ち合わせでは、こんな風に和気藹々とネタ出しをされているんですね。

三木:ほとんど没になりますけどね(笑)。

伏見:それはともかく、麻奈実の話は実は続きがありまして、それは第四巻に収録される予定になっています。偶然もあるんですが、第二巻以降の第二章部分は麻奈実の話になっていて、二巻の二章、三巻の二章、四巻の二章だけで続き物として読み進めていける「麻奈実ルート」という楽しみ方もできますね。

かーず:他にも二章で気になったのが京介と麻奈実の関係です。これまでお互いを異性として意識している風ではなかったんですが、第三巻では特に麻奈実の方が京介を意識していますよね。この心境の変化は意図的なのでしょうか?

伏見:はい。この麻奈実とのエピソードは桐乃にも関わってきます。京介と麻奈実の関係が変わることによって、京介と桐乃の物語にも影響があるんです。


■第三章は兄妹で゛ラブホテル゛!?

かーず:桐乃と京介のクリスマスイブですが、これって完全にデートですよね! 桐乃は兄の事が嫌いだったのでは?

三木:(伏見先生を遮って)デートじゃないですよ!! 取材って書いてますし! 桐乃は京介の事は嫌いです! このシーンはたとえるなら、「あれ、コイツ俺に気があるんじゃね?」って男が思っても実際はまったくそんなこと無かったりしてがっかりする苦い経験があるじゃないですか。あんな感じの思わせぶり具合なだけですよ、絶対! ね? 

同意を求められても・・・・・・という空気になる一同

伏見:(スルーしながら)桐乃がラブホテルに行くためにXXXXXするじゃないですか、あれも兄貴と一緒に行きたいがための戦略なのかもしれない。そういう風に読んでくれる人もいるといいなぁって思ってます。

三木:でも桐乃としては小説を書きたいと思ってホテル街に来ているので、本当にそうしないと書けないんですよ。だから、雨が降るシーンではああするしかないですよね。

伏見:――と、編集さんはおっしゃるのですが、私としては(桐乃の行動が)まったく理解しがたいので、自分が納得できるだけの理由を思い浮かべながら表現してみました。ちなみにあのシーンを描くために、クリスマスイブの夜、渋谷に取材に行ってきました。さらに言うと、そのあとインフルエンザにかかりました。

「リアル桐乃ですね!」と一同爆笑。

伏見:いま思い返すと本格的に発症したのは確か翌月だったので、原因はコミケかもしれないですけどね。ともあれイブの夜は109の最上階で一人寂しく食事をしたり、お店を巡ったりと、桐乃の取材コースをわりとそのままたどってきました。桐乃が欲しがっていたピアスも、同じものが売っていたんですよ。アクセサリーショップの店員さんに参考までに「クリスマスのプレゼントにしたいんですけど、どういうものがいいですか?」って聞いたんです。そうしたら「プレゼントを贈りたい女性は何歳くらいですか?」と返ってきたので、正直に「中学生です」って答えたら、ちょっと固まってましたね。いかん、これ誤解されただろ……と焦りました。

かーず:身体を張った取材でしたね(笑)。ラブホテルの中でデ●●●を呼ぼうとするシーンが面白かったです。

三木:あれは天才の発想ですよね。

伏見:でもボツにしかけませんでした? 「何でこんなに知り尽くしてんだよ、このビッチは」みたいな酷い言われ方をされたような。

三木:いやいやビッチは言ってませんけど(汗)、「もっとオブラードに包みましょう」という話になりました。

かーず:桐乃がよく分かってないウブな感じが可愛いんですよね。

伏見:やっぱりそうですかね?

三木:そうそう、これがかーずさんの「俺の桐乃はこう可愛い」論ですよ。でも伏見先生は納得できない感じですね。

一同笑い


■第四章の実名ネタは電●文庫編集部!? 
ライトノベル編集部をモデルにした理由について

かーず:ライトノベル編集部が劇中に登場しますが、またもやこういうデリケートな件を扱ったことで、大変な苦労があったのでは?

伏見:いやぁ~、もう三巻は出ないんじゃないかと思いました。桐乃がケータイ小説を書いて作家デビューするんだったら編集さんとの絡みも当然出るだろうし、自分もよく知っている事だから面白くできるんじゃないかと思って簡単に『やりましょう』って言ってしまったんですが・・・・・・。想定していたよりも制限がキツくて、なかなか思うようにはいきませんでしたね。

かーず:名刺の使い分けや「拾い上げ」(#注釈)など、裏事情まで赤裸々に書かれている点が驚きました。
#拾い上げ・・・・・・小説大賞には入選しなかったものの、編集者が個人的に見込みがあると判断した作家の担当につくこと。

伏見:編集部をネタにするからには、赤裸々にすればするほど面白いと思ったんです。もちろん書いちゃまずい部分も多々々々ありますから、各方面への配慮を加えたり、いくつかのフィクションも含まれています。たとえば、編集さん同士がニックネームで呼び合うネタは『天からトルテ』『たかまれ!タカマル 』の近藤るるる先生の漫画が元ネタです。

かーず:ちなみに、書いちゃまずい部分というのは……?

伏見:書いちゃまずいところはさすがに言えませんが……そうそう、これなら話してもそれほどまずくないかも……ええっと、ボツになった編集者キャラの逸話とかならたくさんありますよ。

かーず:是非具体的に教えてください!

伏見:実は今回登場した編集者の位置には、三木さんをモデルにしたキャラが配置されていたんです。で、三木さんが私に言い放った(笑)台詞をそのまま載せたり、他の編集者さんや会社の重役さんをデフォルメしてイジったり、他の出版社や他社の作品を会話の中に実名で登場させたりしていました。ごく一部なら公開してもいいそうですので――こんな感じですね(PDF)

「俺の妹」三巻 ボツテキストの一部(PDF)

かーず:これはたしかにボツになりそうですね(汗)。

伏見:編集者(ボツver)と京介&黒猫コンビとのやり取りを読んだ三木さんが、「この編集者、超ムカつく!」と怒っていたので「どの箇所ですか?」と聞いたんです。そうしたらなんのことはない、私が三木さんから言われた台詞をそのまま書いた箇所なんですよ(笑)。
「いや、それ三木さんが私に言った台詞ですよ!? 初めて会ったとき!」
「言ってないよ! 言ったとしてもこんなムカつく言い方してないって、ねぇ小原さん?」
「いや、言ってたよ?」
みたいな感じで、当時は大変揉めました。身近な人物をモデルにすると喧嘩になるというのは個人的に教訓になりましたね。

三木:(落ち込みながら)喧嘩じゃなくて、「この編集者がどれだけムカつくか」の自慢合戦ということで……。

かーず:そこまでして作り込まれた作品だったんですね……。では、この編集部でのやりとりを第三巻のテーマとした意図などはありますか?

三木:『俺の妹』は基本的に超常現象のない話なので、言葉一つにもこだわってリアリティのあるエンタテインメントとして成り立たせています。(今回の編集部ネタも)「事実は小説より奇なり」じゃないですけども、作家さんとの打ち合わせって端から見ると面白いんです。当人たちは当然真剣にやっているので、時には険悪になったり、意見が合わずに衝突したり、誤解がとけて意気投合したりします。そして最終的に本になるわけですが、そういった本をつくる最中の会話ややりとり、それ自体が他では聞けないもので、かつ当人以外は体験できないものだったりしますから、だったらその打ち合わせそのものがエンタテインメントとして成り立つんじゃないか、そう思いまして、今回テーマとしました。

かーず:なるほど。

三木:ちょっとのぞいてみたい未知の領域って、かいま見れるとニヤリとできると思うんです。あとこれはやや後付けなんですが、『俺の妹』シリーズには『魅力の再確認』というコンセプトがあって、一巻や二巻では京介が「オタクって別に世間であんなに言われるほどの奴らじゃない」と知って、既存の評価をぶち壊しました。第三巻では、「スイーツ(笑)」に代表されるように、ネットでは特に「ケータイ小説」がある意味茶化されたり揶揄される存在になっていますが、それを京介が「意外とケータイ小説って悪く無いじゃん、みんな必死で頑張ってんじゃん」と感じるような内容となっています。

伏見:そこまで突っ込んだ内容にするなら、クリエイティブな部分を説明するにはやっぱり自分たちのバトルフィールドであるこの業界の編集部を説明したほうが絶対やりやすいというのはありました。

かーず:『バクマン。』(原作・大場つぐみ 作画・小畑健 『週刊少年ジャンプ』連載中)も漫画業界を題材にして非常に話題になっていますが、ぶっちゃけ、あの漫画を意識されましたか?

三木:イヤ、偶然の一致ですネ。大分前から決まっていて、たまたまデス。(棒読み)

一同笑い

かーず:両作品とも編集さんが駄目出しするシーンが印象強いです。ぷーりんさんを見て「うわぁ、電●編集部って恐い!」と読者の方にネガティブに受け取られる可能性もあると思いますが、そのあたりはいかがですか?

三木:あのシーンは意図的にああいう風にしています。そして側にいた京介が「こいつは酷い奴だ!」と感じるのが正しい意見なので、265ページの京介の独白も、絶対に作家さんはみんな思っている事だろうから削らないでくれって言いました。

かーず:あれはてっきり伏見先生の本音がうっかり出たのかと(笑)。

伏見:ハハハ!(乾いた笑い)。私の場合だと、こんなふうに直接的な酷評は時々しかありません。終始和気藹々と打ち合わせが進むのですが、ふと気がついたら大量のリテイクがあるという感じです。

かーず:ライトノベル作家、クリエイティブな職業の苦労が伝わってきました。そんな中奮闘した黒猫とフ●●●との対決では、黒猫が予想外の言動をして非常に面白かったです。

伏見:何度も直したところなので、そう言っていただけてホッとしました。ある意味フ●●●は黒猫の上手くいかなかった未来像・その1といったものを意識していました。それと対比するように、桐乃がトントン拍子で上手くいった事が描かれています。上手くいくときもあれば、上手くいかないパターンもあるということは是非とも書いておきたかった。それと、あのときの黒猫は非常に強いストレスを受けているんですけども、その状態で彼女はどうするのか、というところを読んで欲しかったんです。

かーず:なるほど。他に伏見先生のお奨めシーンはありますか?

伏見:エピローグで桐乃、沙織、黒猫、京介が一同に会するシーンですね。これまでみんなが一緒にいるシーンが無かったので、若干エピローグが長くなるのを覚悟で入れさせていただきました。

かーず:そのラストシーン、気になる桐乃の台詞の真意は?

伏見:まさに言葉どおりの意味です。

かーず:次の第四巻は短編集という話ですが、どんな内容になるのか教えてください。

伏見:短編集といっても番外編ではなくて、きっちり時間が経過しますし、本編ストーリーも進みます。第二章はさっき言ったように『麻奈実ルート』で、数年ぶりに麻奈実が高坂家を訪れてちょっとしたハプニングに見舞われる話です。あとは、あやせと加奈子が再登場して活躍する話などといった、それぞれ毛色の違う話が四つ収録される予定です。

かーず:楽しみですね。最後に読者の方へのメッセージをよろしくお願いいたします。

伏見:日々修業中です。次はこれまでより、もっと面白いものをお届けしたいと思います。ご期待下さい。

かーず:本日はありがとうございました。

(某月某日、アスキー・メディアワークス本社にて)


ここで伏見つかさ先生のサイン本をプレゼント!

申し込み方法
■受付メールアドレス:oreimo2@yahoo.co.jp
■受付期間:2009年4月8日(水)~2008年4月20日(月)

■ハンドル/ペンネーム (本名ではなく)
■メールの件名に必ず「俺の妹サイン本希望」とお書きください 
■「俺の妹」のキャラクターの中で誰が一番好きかをお書きください
■ほか、伏見つかさ先生、かんざきひろ先生への応援メッセージがあれば

・当選者への当選お知らせメール 4月下旬予定
・申込は1人1件まで。複数申込は無効。申込多数の場合抽選となります
・当選発表は、当選者への当選お知らせメールをもってかえさせていただきます
・当選お知らせメールの際、お届け先とお名前をご返信ください

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【関連リンク】 
伏見つかさ先生のブログ 「LUNAR LIGHT BLOG」
かんざきひろ先生のブログ 「tabgraphics_blog」
電撃G'smagazine.com
電撃文庫&電撃文庫MAGAZINE

取材・文:かーず(かーずSP
取材協力:ノトフ(はつゆきエンタテインメント


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