アニメ「刀語」放映記念! 西尾維新先生インタビュー [前編]
西尾維新アニメプロジェクト 第二弾 「刀語」
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『刀語』とは、講談社BOXから2007年一月から毎月一冊づつ、十二ヶ月連続刊行されたことでも話題となった西尾維新先生の時代小説。その『刀語』が2010年一月より毎月一話・各話一時間で全十二話という書籍と同じ形で完全映像化することが決定した。
「大河ノベル」ならぬ「大河アニメ」として期待が寄せられるこのアニメを手がけるのは、監督に元永慶太郎氏、シリーズ構成に上江洲誠氏、制作スタジオはWHITE FOXというそうそうたるスタッフ陣。今回、平和の温故知新の平和、かーずSPのかーず、はつゆきエンタテインメントのノトフの三人が、すでに第一話をご覧になったという西尾先生に、現在の心境や『刀語』執筆の裏話について話を聞いてみた。
■「キャラクターコメンタリーは、面白いアニメを作っていただいた私なりのお返しです」
―――まずはアニメ『化物語』のことからお訊きしたいのですが。
私がメディアミックスの為に書いたあの『化物語』のことですね。
―――「メディアミックス不可能」って触れ込みがなかったことになってる!
あの発言は取り消すということで撤回します(笑)。私が間違っていました。全てが面白かったです。最高でした。でも実は、第一巻発売日にショップに行ったんですけど、ブルーレイもDVDも全然見かけなくて、その時は、実は本当はアニメ化なんかされてなくて、このまま家に帰ったら看板を持ってる人が立っているという、ちょっと懐かしいタイプのドッキリなんだなと覚悟しました(笑)。
まあ、それは冗談ですが、それくらいご好評いただいたということに対しては心から感謝しています。でも、一番楽しんだのは私だと思いますけどね。
―――秋葉原では毎巻瞬殺だったそうで人気のほどが伺えます。西尾先生も各巻ブルーレイ/DVDのオーディオコメンタリーに、キャラクターが掛け合いをするトークシナリオを書き下ろしたことでも話題になっています。
あれは私が映像を頂いて、それに合わせて書くんですけど、映像と音声がリンクしている感じは音響さんが素晴らしく編集してくださっているおかげです。私に尺なんか分かるわけ無いですから、書き下ろしたのは台本とも言えないようなもので全然尺が合ってないんですよ。どの巻かは言いませんけど、本来必要な枚数の1.5倍くらいの分量を手渡してしまって、後から削ったりもしました。これだけ無茶を言ってやっていただいて、正直副音声が不評だったときはどうしようかなと、かなりドキドキしていました。
―――不評どころかファンの間では非常に評価が高いです。
良かったです。あれは最初に「キャラクターが話すコメンタリーってどうですかね?」と、私からさりげなく露骨に提案し、スタッフの皆様に実現していただいたものです。しかし計算外だったのは、結構な文字数なので書くのが大変っていうことで(笑)。ただ私よりもキャストさんや音響さんのほうが明らかに大変なので、そして私が言い出したことなので文句は言えないっていう(笑)。
キャラクターコメンタリーの書き下ろしは、面白いアニメを作っていただいたことに対する私なりのお返しということです。しかし恩返しをすることで、皆さんの仕事を増やしたっていう酷い話にもなっています(笑)。私の感謝って基本的に迷惑なんですよ。「アイツに感謝されるようなことをするな、仕事が増えるぞ!」みたいな状況になっているかもしれません。ちょっとこれからの活動を考えますね。
■『刀語』は七花と否定姫に注目!(ただし否定姫の出番は後半から)
―――1月から放送される『刀語』にも期待が集まっていると思いますが、こちらのアニメ化について西尾先生のご心境を伺いたいのですが。
鑢七花(やすり しちか)がかっこよく描かれていれば嬉しいということと、否定姫の描かれ方に注目しています。否定姫は、一歩間違えるとただの悪役になってしまいますから、その味わいをどう演出するかというのは気になります。基本的にメディアミックスには口を出さないのですが、ドラマCDのアフレコの時も否定姫だけはいろいろと説明していまして、アニメのスタッフさんには、「他のキャラには何も言わないのに否定姫にだけはなんでこんなにこだわるの?」と思われてしまったかもしれません。
―――否定姫がお気に入りなのでしょうか?
はい。最初は「とがめ」のライバルとして「いさめ」というキャラを出そうとしたんですね、「咎」に対して「諫」。ただ、小説内に出てくる『喰鮫(くいざめ)』という、文字通り鮫なのにも関わらず雑魚みたいなキャラと名前が少し被ることに気づいて、「あんな雑魚と名前が被ったヤツをライバルには出来ない」ということでいったんボツにしかけたんですが、「否定姫」という名前を思いついたらキャラが立ったので再度復活しました。潰れかけては復活するというしたたかな誕生の仕方からして原作とリンクしていて非常に彼女らしく、今では思い入れのあるキャラクターになっています。
―――アニメになったらここが難しいんじゃないかな? と思うところはありますか?
竹さんの絵をどう動かすのかが一番難しいと思ってたんですが、「映像化不可能」とか言うと可能にされて、原作者の発言を前フリに使われてしまうことを最近学びまして。
(一同笑い)
だから竹さんのイラストの映像化については何も言わなかったんですが、第一話を観ましたけどWHITE FOXさんがやってのけました、見事に動いています。それと真庭蝙蝠が私のイメージ通り凄く格好いい感じになっていて素晴らしかったですね。真庭蝙蝠と七花、とがめの三ショットは、その場にまともな人間が一人もいないという酷い画になっていてテンション高いんですよ。今後も真庭忍軍には期待し過ぎるということが無いくらい注目です。
―――『刀語』は人がたくさん死んでいく話なので、そこがどう描かれるのか気になります。
「するがモンキー」のような処理がされるんじゃないでしょうか(笑)。小説は活字ですからグロいシーンを見せずに済むんですが、そのあたりもアニメ化の楽しみどころだと思います。
『化物語』にテーマがあるとすれば「人生は続く」でして、事件が一つ終わった後でも何事もなく生きて続いていくということなんですが、それに対して『刀語』は「人生は終わる」っていう話なんですよ。死ぬ所まで含めて人生であるというところがテーマなので、ガンガン人が死んでいく。つまり死ぬことを生きることの先に明確にあるものとしている奴らの話でして、真庭鳳凰の「忍びは生きて死ぬだけだ」という台詞がありますが、あれは真庭忍軍に限ったことではなく、全員そうなんです。
―――他にアニメで注目しているシーン、エピソードはどこでしょうか?
少しネタバレになってしまうのですが、途中、とある敵に七花が初めて敗北を喫するところでしょうか。やっぱり人間は負けを経験しないとデカくなれないので、あそこで大きく負けてもらったんですが、最強のヤツに負けるのはあたり前の事で、それでは挫けられない。明らかに自分より弱いと思っているやつに負けるという格好悪くてしょうがない負けっぷりをいかに描いてもらうかが気になります。やっぱり強き男って言うのは負けっぷりにも華があると……小説では華は特になかったですね(笑)。ともかくテレビを見た子供達には、負けても立ち上がる七花を見て「僕も頑張ろう、私も頑張ろう」みたいな感じで次の日学校に行ってくれればいいなと。
―――綺麗にまとめてくださってありがとうございます(笑)。後編は、十二ヶ月連続刊行をリアルに追っていた平和の温故知新の平和氏による、原作ファンならではの濃い質問を西尾先生にぶつけてみました!
(C)西尾維新・講談社 /「刀語」製作委員会
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取材・文:平和(平和の温故知新)、かーず(かーずSP)、ノトフ(はつゆきエンタテインメント)