【かーず&ノ トフ】 Angel Beats!の原作/脚本・麻枝准インタビュー [前編]

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麻枝准氏が、初のアニメオリジナル脚本を手がけたAngel Beats! |
――神への復讐 その最前線
なんらかの理由で最後を遂げた少年・音無は、死後の世界の学校で、ゆりと名乗る少女と出会う。彼女は神に反逆する「死んだ世界戦線」のリーダーで、天使と日夜激戦を繰り広げていた。そして、立ちはだかるは神の使い・天使。それは、可憐なひとりの少女だった。生前の記憶が無く、この死後の世界で何が起きているのかも分からず戸惑う音無。彼は、ゆりたちと共に戦う道を選ぶことにしたのだが…。
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■「面白いと思う要素は、とにかく遠慮せずに全て詰め込みました」
―――第一話を観られた感想はいかがでしたか?
単純に、凄かった! 自分が作ったのは原作と脚本だけですので、それが絵になって、音が付いて、声優さんがしゃべって、あそこまで広げて凄いモノにしてもらったのは、監督を始めとするたくさんのスタッフさんの賜物なので、とにかく面白くて予想以上でした。
ただ第1話は、もちろんライブシーンやバトルなど魅力的な所が多いんですけれど、やはり第1話なので世界観の説明もありますので、『Angel Beats!』ならではの面白さという意味では、第2話から始まると言っていいかもしれません。第2話はダビング(音響)作業で再生する度に、自分の横で鳥羽洋典プロデューサーが毎回同じ所で絶対に笑うんですよ。自分も何回も笑ってしまうので、本当に楽しみにしていて下さい。
―――これまでのKeyのゲームと今回の『Angel Beats!』で踏襲している部分はどこでしょう?
鳥羽プロデューサーが一番最初に自分に対してオファーした時に掲げていた「最初は楽しくて笑えて、最後は泣ける」という点です。あとはBGMや歌も、これまでのKeyらしさの延長線上にあります。ただ『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』でいわゆる「泣きゲー」と呼ばれるジャンルをやってきて、「もう一本泣ける話を」というオファーに応えるのが凄く大変でした。一人の人間から出てくる感動できる話は『リトルバスターズ!』までで出し尽くして、これ以上は出てこないと思っていたんです。
けれども『Angel Beats!』のお陰でもう一本新しい話ができましたので、それを引き出してくれた鳥羽さんには感謝してます。「死後の世界」というアイデアをふと思いついて、ブレインストーミングでポロっと言ったらみんなに「ああ、それいいですね」って言われて書き始めたんですが、話が静かすぎてアニメとして面白いかずっと疑問だったんです。しかし最初のプロローグでいきなり銃を構えてるゆりが書けた時に「あ、これはいける!」と思って、一気にバトルものに書き換えた形になりました。
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―――今回はゲームではなくアニメということで、メディアの違いで試してみたかった事、挑戦的な部分はありますか?
Keyでゲームを作っている時は、そのチーム内で作れるキャパシティを考えながら企画して作るんですけども、今回はアニメということで鳥羽プロデューサーが素晴らしいスタッフの方々を集結させて下さったので、もうキャパを考えずに(笑)、やりたいことをやりたい放題詰め込みました。
「こんなことしたら、絶対面白くなるんだろうな」って事は、ゲーム制作の時に思いついても「これは流石にスタッフに負担がかかりすぎて無理だろう、現実的じゃないだろう」という所でボツにするんですが、自分はアニメを経験した事がないために、何が出来て何が出来ないのかが分からないので、とにかく面白いと思われる要素は遠慮せずに全て詰め込みました。
ですがそのせいで現場はものすごい事になってしまって、総作画監督の平田雄三さん曰く「本来ならアニメは二十数分の尺で出来る事を前提にして脚本を書くんだけども、この作品は麻枝さんがやりたいこと詰め込んだ、無茶振りな作品だ」って言わしめるくらい…。
■「設定制作を丸投げできたおかげで、ここまでの脚本が書けました」
―――麻枝さんらしさが全開なんですね(笑)。では、ゲームの現場と違ってアニメの現場ではここはやりやすかったという点はありますか?
本当に身勝手なんですけど、設定制作の丸投げです(笑)。ゲームの現場では、例えば小物や銃器に関してもスタッフに「こういう仕組みなんだよ」と調べて説明したり、背景にしても自分でロケに行ってきて写真を撮ってきてお願いするんですけど、アニメでは脚本を渡すだけで、あとは設定をスタッフさんに作ってもらえるのが、めちゃくちゃありがたかったです。だからこそシナリオを書く方に専念できて、ああいう脚本が書けたということもあって、本当に助けてもらいました。
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―――では反対にアニメならではの苦労点はありましたか?
アニメで苦労したことと言えば、「本読み」(監督や脚本家、プロデューサーらでシナリオを検討して、脚本を完成させる会議)ですね。一話につき最低第5稿以上、時には第6~7稿くらいまでで完成稿になるんですが、毎回そのために出張で大阪から東京まで片道2時間50分通うのが大変でしたね。
―――物理的に大変だったと(笑)。ちなみにゲーム制作では、みんなでシナリオを読み合ったりする「本読み」的なことはあるんでしょうか?
他のゲーム会社やブランドであればディレクターやプロデューサーを通すのですが、Keyの場合は特殊で、全部自己判断でやっています。というのも上に立つ人の判断でボツにしても、もしかしたら正解ということも多々あるからなんですよ。「挑戦的だけどこれはやってみようよ」ってことを世に出して、それでダメだったら打ちのめされるんですけど、そうした時に学べるものは凄く多くて成長できるんです。だから自分は、誰かの下について書き続けているとシナリオライターは育たないと思います。誰かの下で書いていてマイナス評価された時には、その上の人のせいに出来ちゃうじゃないですか。ユーザーさんの生の声を浴びてクリエイターは成長していくべきっていう持論を自分は持っているんですが、たぶんこういう事をやっているゲーム会社はなかなかないと思います。
自分の場合は『ONE~輝く季節へ~』という作品でボコボコに打ちのめされた時に、とにかく色んな人の感想を読みあさって研究して学んだ結果、『Kanon』で真琴シナリオを生み出せたんですが、「実はキツネでした」なんてあまりにファンタジックすぎて、当時は社長がデバッグした時に「冷めた」って言ってたんですよ。例えばそういう人がディレクションしてたら「突拍子もないよ」ってボツになって、真琴シナリオは生まれてなかったと思うんです。今だったらOKかもしれませんが、当時は「人間が実はキツネでした」なんて鶴の恩返し的な話を美少女ゲームでやるなんて奇抜すぎて、経験を積んでいるディレクターがいたら「それは無い。だってキツネと恋愛するわけないだろ。お客さんは人間と恋愛をしたいのに、なんでキツネと恋愛しなきゃいけないんだ、ジャンルをはき違えてるんだ君は」ってボツになっていたと思います。でも、自分としては密かにこれは凄いものになっているんじゃないかという自信はあって出したんです。
―――では、シナリオに対して意見をみんなで話し合う作業は、新鮮だったんでしょうか? Key作品は過去に何度もアニメになっています。
自分の脚本に対して、あれやこれやと口を出して意見をもらうのは初めての経験でした。Key作品のアニメでは本読みには参加してなくて、一応脚本は送られてきて意見程度にアイデアは伝えますが、本読みのようなセリフ1つ1つを検証していく密なる作業は初めてでした。ただこれは勘違いから始まったんですけど、参考にした脚本の枚数に合わせて書いていたらそれが特殊だったらしく、結果的に枚数が多くなってしまったんです。だから毎回尺を削る戦いで、ギャグパートを断腸の思いで削っていかなきゃいけなくて、それは苦労しましたね。
三月某日 都内レコーディングスタジオにて。
『Angel Beats!』原作/脚本・麻枝准インタビュー 後編につづく
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