「変態王子と笑わない猫。」3巻発売記念 さがら総先生・カントク先生インタビュー 後編
さがら総先生著・カントク先生イラストによるMF文庫Jのライトノベル「変態王子と笑わない猫。」。インタビュー後編では、なかなか知ることの出来ない原作小説の様々な疑問・質問についてお答えいただきました!(前編はこちら)。「変態王子と笑わない猫。」の重大なネタバレを含んでおります。三巻読了後にお読みいただくことを推奨します。
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「変態王子と笑わない猫」 |
■一巻のラストは、月子と横寺の絆の深さに注目!
―――タイトルのキャッチーさだけではなく、お互いの「本音」と「建前」を取り戻すという内容もユニークだと感じました。
さがら総(以下、さがら):最初は悩みを抱えた女の子をたくさん出して、それを解決していく話……漫画で言うと『地獄先生ぬ○べ○』や『神のみぞ○るセ○○』みたいな話を考えていて、その中のひとつ「笑えなくなった女の子」というのを膨らませてメインにしました。
―――「望まない形で願いを叶える」という部分で、「猿の手」(注釈)からの着想かと思ったのですが……。
※『猿の手』……ウイリアム・ウイマーク・ジェイコブズによる古典的小説。持ち主の願い事を叶える猿の手のミイラだが、意図しない形でそれを叶えることで結果的に不幸になるというホラー短編で、後世の様々な創作作品に影響を与えている。
さがら:前述したように「なぜ笑えなくなったのか」という所から考えていったので、そうではないんです。それと、執筆当時は主人公の男の子がペラペラしゃべる一人称の小説が書きたいと思っていた時期だったので、筒隠月子と横寺陽人が対称的になるんじゃないかというところから書き始めました。
―――そして一巻のラストなんですが、新人賞に応募された時には、もちろんこれで完結していたわけですよね?
さがら:はい。元々一巻は、あれで完全にハッピーエンドであるという終わり方になっています。最後に月子が笑顔を返しちゃうシーンは続刊のために変えたと思われがちなんですが、月子の笑顔は戻ってないけれど横寺にはわかっているから、笑顔が戻る・戻らないよりも一段超えたところに、彼らの間には通じ合うものがある、ということを書きたかったんです。
でも「バッドエンドである」とか「続刊を意識した終わり方である」という感想を見て、そういう読まれ方もあるのかと(笑)
―――名前の響きも面白いと感じました。
さがら:小豆梓(あずきあずさ)、筒隠つくし(つつかくし つくし)、筒隠月子(つつかくし つきこ)といったように、みんな韻を踏んでいます。韻を踏むのが好きなんですけど、担当さんには「その前に早く書いてね」って言われます(笑)
―――本文でも、例えば三巻のP136に「エミエミエミエミ」って横に続いていて、西尾維新先生的な言葉遊びの要素を感じます。
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3巻P136「エミエミエミエミ」横に続く言葉遊び |
さがら:西尾先生の言葉遊びのセンスは「めだかボックス」を読んでいてもずば抜けていると感じます。やっぱり本当に天才なんだと。私も「戯言シリーズ」を好きで読んでいる以上、意識的にしろ無意識的にしろ、影響は受けているのかもしれません。
―――ライトノベルは普段から読まれているんでしょうか?読み始めたきっかけは?
さがら:上遠野浩平先生の「ブギーポップは笑わない」がきっかけでライトノベルを色々と読みましたが、最近はラノベを読んでしまうと影響を受けてしまうので。みんな面白くて悔しくなっちゃいます(笑)
ラノベ以外では村上春樹先生や小林泰三先生が好きで、海外のSFや一般文芸を読んでいます。
■陸上部に君臨する「鋼鉄の王」、その謎に迫る!
―――特に一巻で顕著だと感じたのですが、「鋼鉄の王」と「つくし」の使い分けにはこだわりがあるのでしょうか?
さがら:はい、横寺が「鋼鉄の王」って言ってる時はいわゆる恋愛対象としては見てなくて、そういう対象になっている時に「つくし」って言ってるんです。 二巻では「王様」とか「鋼鉄さん」と言っているんですけど、三巻では「王様」とは一言も言ってないんです。それは鋼鉄さんへのイメージが変わってきていて、横寺にとってだんだん親しみやすくなってきたということなんです。鋼鉄さんは書いていて一番楽しいですね。
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つくし横寺ラブ |
カントク:二巻では鋼鉄さんが可愛いと思われなければ負けだと思っていたんですが、読者さんの反応を見ると鋼鉄さんにハマったって人もいて良かったです。二巻の目的は姉妹を掘り下げるのが目的だったから、可愛さが伝わったのが一番じゃないかなと思います。
―――鋼鉄の王の私服が残念すぎますが、あの服のセンスには理由があるのでしょうか?
さがら:あれは月子がちっちゃい頃から姉の服を用意してくれていたので、センスが育つ暇がなかったんです。三巻の「牛乳」Tシャツとかは鋼鉄さんが気に入って買ってくるんですよ。月子はそれを見るたびにタンスの下のほうに仕舞うんですけど、鋼鉄さんが取り出して着てしまうと(笑)
―――今後のつくしさんの恋愛事情は?
さがら:あの中で一番押しが強いのは鋼鉄さんなので、最後は一番幸せになりそうですよね。横寺も、弟のまま通しちゃうのかもしれません(笑)
―――(笑) 月子は弟のことを姉にバラさないままなのはなぜですか?
さがら:バラしてしまうと、それはそれでライバルになってしまうので。バラさないことで、あれは違うのだと月子の中でも納得を付けているんです。
―――二巻は鋼鉄の王の話がメインでしたが、表紙が小豆梓なのはなぜでしょうか?
さがら:私は鋼鉄の王を凄く推しました!
担当編集:月子の次のヒロインは小豆梓なので、そこを無視して鋼鉄さんを二巻にすることはできなかったんですよ。それにインタビュー前編でもお話ししたように、確実に梓のファンはついているという感触はありましたので、ここは梓しかないという事で相談しながら決定しました。
カントク:書店に並べた時のパッケージとしても、仮に鋼鉄さんにすると、月子と髪の色が同じなので一巻と似たような雰囲気になってしまいますので、そういう理由もあります。
■「エミはカントク先生のイラストに触発されて執筆しました」
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MF文庫J「変態王子と笑わない猫。」3巻表紙 |
―――最新刊の三巻ではエミが登場しますが、ずいぶん変わった子ですね。
さがら:最初は、中盤からいきなり邪悪にしようと考えていたんですが、いきなり切り替えても絶対受け入れてもらえないと思って、ああいう形にしました。カントクさんから、「ぶっちゃけモード」みたいなやさぐれたエミのラフ絵を頂いて、「ああ、こういうキャラか。なるほど!」って触発された部分が大きいです。
カントク:ええっ! 原作者じゃないですかっ!(笑)
さがら:完全にカントクさんの絵を見て執筆しました(笑) エミは登場する女の子の中では一番精神年齢が高くて、次に月子、梓、鋼鉄さんというイメージです。年齢の低い順に精神年齢が高いんです(笑)
―――鋼鉄さんが一番精神年齢が幼いんですね(笑)ちなみに、なぜイタリアなんでしょうか?
さがら:イタリアに行ったからです。
担当編集:身も蓋もないですね!
さがら:でも一応、一巻の時から考えてました! 筒隠姉妹の瞳が青みがかっているのは、むにゃむにゃ……
―――イタリアが出てきたことで、イラストを描かれる時に苦労した点はありますか?
カントク:P189の洞窟の中のイラストは、逆光になって裸の魅力がないじゃん!と思ったので、そういう矛盾は割り切って、一番挿絵として魅力が出るように描きました(笑)
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3巻P189挿絵 |
カントク:2枚目のカラーピンナップは、洞窟の中だけど暗くならないように、あくまで夏のバカンスっぽくと指定されました。かなり迷った挙げ句、入り口付近で泳いでる形にして、洞窟のなかにプールサイドがあって、そこから飛び込んでいるという感じですね。
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3巻のカラーピンナップ |
―――三巻で一番印象に残ったシーンはどこでしょうか?
カントク:最後のシーンが一番印象に残ってはいるんですが、まず学校がイタリア化して、全員水着で、本当に王子扱いを受けているっていう、そのコンセプト自体に一番衝撃を受けました(笑)
さがら:タイトルが「変態王子と笑わない猫。」 なので、『王子』であることをここらで推していかないと、このままじゃ『変態と猫』になっちゃうので。 一同笑い
―――余談になりますが、ご自身が付き合うとしたら、誰を恋人にしますか?
さがら:横寺の意識とは違うかもしれませんが(笑)、私個人ですと、もうぶっちぎりで鋼鉄さん。付き合って後腐れ……楽しいのが鋼鉄さんなので。
―――い、今、何か言いかけませんでしたか!?
さがら:いえ、気のせいです。お嫁さんにするなら、一番世話を焼いてくれそうな月子、友達なら梓。梓は付き合うとたぶん一番面倒くさそうな子なので(笑)
カントク:鋼鉄さんを除いた中で空気を読めないのは梓だと思いますので、梓がいいです。周りが見えないからこそ、一途でいてくれそうかなって!
さがら:修羅の道を行きますねー(笑)
■サイン会への意気込みについて
―――三巻の発売を記念して『変態王子』初のサイン会が行われるということで、(MF文庫J編集部ブログ サイン会開催のお知らせ)、お二人の今のご心境は?
カントク:前に自分の画集のサイン会をさせていただいたことがあるんですが、今回のメインはさがらさんなので、気持ち的にはけっこう楽です(笑)
さがら:私が心配してるのが、カントクさんのサインだけ持って「じゃあ」って帰っちゃう人がいることなんです。カントクさんのサイン目当ての人が9割、下手すれば10割なので……。
―――そんな事はないと思います!最後に、読者さんへメッセージをお願いします。
カントク:私はさがらさんに足並みを揃える形で、できるだけ本文を読んでる人にとってマッチする絵を描きたいと思っています。 だけどそれだけではなくて、ライトノベルを読んでいる人にとっての見やすい絵というのは(改善の余地が)まだあると思うんですよ。文章に合ったラノベらしい絵が描けるように頑張りたいと思っているので、これからもよろしくお願いします。
さがら:……という素晴らしいイラストレーターさんが描いてくださっている本ですので、もう本当にお奨めです! これからも応援よろしくお願いします!
―――本日はありがとうございました。
※サイン会の応募は既に定員に達した為、締め切っております。
取材・文:かーず(かーずSP)、ノトフ(ノトフのブログZ) 協力:平和(平和の温故知新)
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【関連リンク】
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変態王子と笑わない猫。 - Wikipedia
さがら総とは - はてなキーワード
カントク氏のホームページ「5年目の放課後」 / pixiv






