【コラム】可愛い女の子がたくさん恥ずかしがる青春TSラブコメ「私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない 1」伏見つかさ先生インタビュー<後編>
インタビュー後編は『私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない 1』の内容に軽く触れているところがありますが、先にこの記事をお読みになっても、面白さが損なわれないように構成しています。
■『俺の妹』『エロマンガ先生』よりも等身が上がった 『わたハズ』ヒロインたち
───かんざきひろ先生の描くキャラクターたちが今回もすごく可愛いですね! 新シリーズ開始にあたって、かんざき先生とはどういった打ち合わせをしたんでしょうか?
みやP(ストレートエッジ所属、担当編集):実際の女子中高生が着ている制服のイメージや髪型をベースに、可愛さが出るデザインをご相談させていただきました。中高生の読者にも可愛い!いいね!と楽しんでもらえたらいいなと。
───具体的にはどういったところですか?
みやP:昔はスクールバッグだったんですけども、今は指定のないリュックで登校する子が多いとか、ソックスの長さとか細かいところで現実との差を埋めつつ、いい意味でファンタジーな高校生に落とし込めるよう、気を遣ってデザインしていただきました。それと今回はヒロインが高校生なので、頭身も高くなりました!
伏見つかさ(ライトノベル作家。以下、伏見):すごく好みです。
みやP:『俺の妹』『エロマンガ先生』はメインヒロインが中学生でしたが、今回は高校生なので、等身を上げる事は決まっていました。ですが等身を上げすぎると可愛さが足りなくなり、等身を下げすぎると高校生らしくない。そうした中、細かい調整をしていただきました。かんざきさんからもコメント預かっております。
かんざきひろ(イラストレーター。以下、かんざき):キャラに関しては今回、本当に上手くまとまらず大変でした。みやPさんは良い、かわいいと言ってくれるのですが、自分の中で納得の行くラインまでいくのに、とにかく苦労しました。「絵とは…」などとアイデンティティ崩壊一歩手前までいったので、なんとか形にする事が出来て良かったなと思っています。
みやP:リアリティとファンタジー、そして等身の変化など『俺の妹』→『エロマンガ先生』のときより調整箇所が多くなってしまい申し訳ございませんでした……!!!でもデザイン初稿から可愛かったのはこれを読んでいる皆さんならわかってくれるはず!!
───千秋と楓は、身長も髪の毛も対照的なんですね。
みやP:髪の色はキャラクターの性格に合わせて、千秋は赤系、楓は青系になりました。楓の髪が長いんだったら、千秋は短めの方がいいんじゃないか、そんな風に決めていったんです。
───もともと男性だった千秋の身長が低いことが意外でした。
伏見:やっぱり性転換したので、妹と身長差を逆転させた方がいいんじゃないかと思いまして……この辺りはTS識者の方々にご意見をうかがいたいです。私はこれが好きです。
■ウジウジ悩まず、 話が暗くならないポジティブ主人公・千秋
───そんな主人公兼ヒロインの千秋は、どうやって膨らませていったのでしょうか?
伏見:『わたハズ』の初期衝動が“疲れた時でも楽しめる作品を書きたい”という動機でしたので、“人生を楽しく過ごしているヤツにしよう”と。どんなに大変な事態に陥っても、千秋はウジウジ悩まず、話が暗くならないところが気に入っています。
───ドラマの展開として、どうしても千秋をピンチにさせる必要も出てくると思うんですが……。
伏見:だいたい10行ぐらいで復活するんですよね。
───復活が早すぎる(笑)。
伏見:そういうポジティブな性格も、お話のテンポアップに役立っています。楽観的な主人公だからこそ勢い良く、話が弾んでいきやすいんです。
───千秋の胸のサイズですが、楓よりも大きいんですね。
みやP:千秋の胸がはち切れるシーンは、動画サイトで「シャツ 胸 はち切れる」などのワードで調べて、「これぐらい大きくないと、はち切れないようです」ってかんざきさんにお見せしました(笑)。
───入学スピーチからの逆算で胸のサイズが決まったと。
みやP:その千秋を基準として、メイは千秋よりも大きくして、楓は年相応で胸がちょっと小さめという風にバランスを相談しながら決めていきました。でも入学式でシャツがはち切れるシーンは、割と初期から決まってましたよね?
伏見:はい。そういうインパクトのあるお披露目シーンは必要かなって最初から考えていました。
■女子にモテモテのクールビューティ、 双子の兄を嫌う妹・楓
───千秋とは逆に、妹の楓はクールな性格ということですが。
伏見:可愛い女の子がたくさん恥ずかしがる話にするには、どんな子が恥じらったら可愛いかな?って点から膨らませていきました。普段は絶対に動揺しないクールな子にしよう、千秋が欲しいものをすべて持っていて、性格もツンツンしていて、兄貴に冷たい性格で……と自然に決まっていったんです。
───楓のお気に入りポイントはどこですか?
伏見:恥ずかしがったり、やけくそになったり、感情をむき出しにしている時が可愛いです。
───下半身に影響されているときは、あれはまた別ですよね?(笑)
伏見:あの時は彼女が普段は絶対にしない行動をしてしまうので、面白くはあるんですけれども、楓が可哀想になりすぎないように気を付けています。
───タイトルの『私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない』が、初見では千秋の心情と思わせておいて、実は楓の心情というミスリードを狙っているのは意図したんでしょうか?
伏見:最初は「わたしの初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない」だったのですが、「千秋はこんなこと言わないな」と思いまして。楓視点のタイトルにしたという経緯があります。
みやP:Xで初報を出す時に、ショートのあらすじとロングのあらすじを一緒に出して、同じタイミングで楽しめた方が面白いんじゃないかと思いまして、画像上で載せるあらすじは楓視点にして、電撃文庫のページにある千秋視点のあらすじを読むと、より一層、奥深く見えるようにしました。
───この画像と、公式ページのあらすじの文章を読み比べるとニヤニヤしちゃいます。
伏見:楓が千秋に一目惚れしていたって情報は大きなネタバレになるんですけれども、先に明かしてしまっても面白さは減らないと思いますので、ここで明かすことにしました。知らずに読んでも、知った上で読んでも、どちらでも面白い作品ですので、あらすじに入れることにしたんです。
■悪くて可愛い姉ヒロイン・夕子
───夕子のキャラ付けについてはいかがでしょうか?
伏見:前述したように、どうすればテンポよくお話が進められるのかを考えて、世界観設定と作中ギミックをそのままヒロインにしちゃおうということで生まれました。作中で発生する常識外のトラブルは、すべて夕子が元凶です。
───序盤から夕子が、悪びれもなく白状しますし(笑)。
伏見: 夕子は打ち合わせのたびに、どんどん悪人になっていったんです。なぜかといえば「善良なお姉ちゃんは、妹たちにこんなことしないよね」って話が何度も出てきて……。
(一同笑い)
伏見:私が今までに書いたキャラクターの中で、一番の悪人だと思います(笑)。
■複数の役割を兼ね備えている強力なヒロイン・メイ
───次に、幼なじみの西新井メイについて伺います。
伏見:今後の物語に必要なキャラクターの役割を書き出していって、整理して、全部詰め込んだヒロインがメイです。
───ラノベでよく出てくると言えば、親友、幼なじみ、クラスメイトあたりだと思うのですが、ポジションをすべて兼ね備えているということでしょうか?
伏見:そうですね。クラスの人気者で、男の千秋が好きで、千秋を男に戻したいという動機を持っていて、他のヒロインにはない魅力があって……と。物語に必要な要素をたくさん詰め込みました。
───『わたハズ』では、あまりキャラクターを増やさないという意図を感じます。
伏見:はい、今のところは。すでに2巻まで書き上がってるんですけど、1人も増えていません。そのぶん個々のキャラクターの責任が重いので、パズルのピースのようにぴったりと相性の良い4人にしました。
───人数を増やさないのも、スピード感に関係しているんですか?
伏見:そうですね、人物紹介よりも、どんどん展開を先に進ませる方を優先しました。メイは、メタ的には不利な立場のヒロインではあるんですけど、それを跳ねのけられる可能性を感じる強力なヒロインにできたと思います。
───西新井メイの名字は、地名からとったんですか?
伏見:東京都足立区にある西新井という地名からです。メイは西新井の擬人化ヒロインのつもりで書いています。
みやP:そうなんですね!?
伏見:西新井にお住まいの皆さんには、解釈違いだったら申し訳ありませんとお詫びしておきます。
(一同笑い)
伏見:五反野に住んでいた子供の頃の私にとっては、特別な日に電車に乗って向かう、特別な場所だったんです。そんなわけで、メイはとてもゴージャスなヒロインになりました。
───では千秋たちの「八隅」も地名なんですか?
伏見:いえ、これは語感で決めました。下の名前は作品舞台のイメージに紐付けて、千秋、楓、夕子の全員が秋っぽい名前になっています。
■「面白いラブコメラノベってなんだろう?」 長年悩んできたラブコメ作家が見つけた答えは?
───ここからは伏見先生の現在についてアレコレ伺っていきます。ラノベ作家としての悩みはありますか?
伏見:今に限ったことではなく、デビュー当時からずっと「面白いラブコメラノベってどういうものなんだろう?」って悩みを抱えていました。
───その答えが出たんですか!?
伏見:いいえ、まったく(笑)。ただ、今回は基本に立ち返って、一冊の本の中に、ヒロインを好きになってもらえるようなラブコメシーンを、できる限りたくさん入れようと心掛けました。 『わたハズ』は可愛いヒロインが売りの作品ですから、このキャラにはこんな可愛いところがありますよ、と、4人のヒロインと心中するつもりで掘り下げていくつもりです!
■ラブコメ作品における“両親”の扱いについて
───『わたハズ』では主要キャラを4人に絞る話が出てきましたが、今回は両親は出さないと割り切ったんでしょうか?
伏見:すっぱり書かないと決めて、その分展開を早くしました。
───ラブコメ作品を書く場合に、両親という扱いにくい要素はどうするのがいいか、創作をする人に向けてアドバイスをお聞きしたいのですが。
伏見:最初に結論を言ってしまうと、最適解はおそらくないと思います。作者の好きに決めていいんじゃないでしょうか。例えば『俺の妹』では両親が健在で、特に1巻では重要な役割として関わってきました。『俺の妹』では、両親を出すことによる面白さがあると思うんです。一方で『エロマンガ先生』では両親が亡くなっていて、主人公とヒロインの2人暮らしになりました。しかし実は、2人の夢が生まれた経緯に両親が関わっていて、重要な要素になってくるんです。
伏見:ラブコメにおける両親は面白い材料なので、作者の自由に料理すればいいと思っています。突き放した言い方になってしまって申し訳ないのですが……。
───いえ、伏見先生のこれまでの実績から来る説得力と重みを感じるナイス回答です。次に、ライトノベル業界が近年厳しいんじゃないかという意見について、思うところはありますか?
伏見:業界の先のことはわかりませんが、日本の識字率は高いですし、テキストの娯楽はなくならないと思っています。私にとっては、色々な挑戦ができる面白い環境だという認識です。
───年々、自分の実年齢と登場キャラクターたちの年齢差がひらいていく中で、十代のキャラクターがだんだん書きづらくなるといった感覚はあるんでしょうか?
伏見:まず、私の精神年齢が上がっていないので、十代のキャラクターが書きづらくなるという感覚はまったくありません(笑)。ただし、今の中高生と同じ経験をしているわけではないので、そのズレは間違いなくあります。なるべく彼らと同じものを楽しむことで、少しでもズレを埋めていけるようにと考えています。いまの自分に一番足りていないのがVTuber方面で、隙を見て勉強したいと思っています。この記事を読んでくださっている皆様には、初心者におすすめの動画やVTuberを教えていただきたいです。
みやP:伏見先生へのファンレターや、公式のXなどで、伏見先生へオススメのVTuberを教えてくださいね!
───VTuberを追えていないことには理由があるんでしょうか?
伏見:単に時間がなくて、仕事中に他のことができないんです。「YouTubeを流しながら仕事してます」って他の作家さんから聞くことがあるんですけど、私はマルチタスクができない、シングル脳なので。
───最近いいなって思ったヒロインキャラはいますか?
伏見:映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』に登場するドリックというドルイドの女の子です。映画自体も面白いので、ぜひ観ていただきたいです。
───公式サイトで、この右から二番目の女性ですね?
伏見:ドリックには色んな動物に変身できる能力があって、それが映画の見どころになっているんですよ。ゲーム『バルダーズ・ゲート3』の影響で、TRPG(テーブルトークRPG)の派生作品にハマっていて、その流れでこの映画を観たのですが、大正解でした。
───ご自身でTRPGはプレイされずに、TRPG的なゲームとか映画を見たりってことですか。
伏見:テーブルトークRPGって一人では遊べないんですが、近年のゲーム業界では、テーブルトークRPGをコンピューターゲームで再現しようとするタイトルが増えてきているんです。『バルダーズ・ゲート3』もそうですし、『ディヴィニティ:オリジナル・シン』『Pathfinder: Wrath of the Righteous』などなど……素晴らしいRPGが次々に登場して、嬉しいです。
■「今回は手に取りやすいタイトルに しましたのでご安心ください!」(伏見)
───2巻の内容はどんな感じになりそうですか? すでに書き上げていらっしゃるんですよね?
伏見:はい、脱稿しています。2巻は1巻のラストエピソードの続きから始まります。千秋と楓の微妙な関係を生かしたラブコメが展開されていきますので、ご期待ください。他にも、ヒロインたちの恋愛観を掘り下げたり、夕子が謎の発明品で新しいラブコメシチュエーションを作ったり、メイがさらなる猛攻を仕掛けて来たり……きっと楽しいお話になるはずです。
───それでは新シリーズ『私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない』がスタートしたということで、最後に意気込みやコメントをいただいて締めたいと思います。
みやP:電車の中や学校の休み時間に読むと笑ってしまいますので、ぜひ、お家で一人でいるときに、ゆっくり読んでいただくことを推奨します。色んな描写にクスッとしたり、可愛いヒロインたちの言動に思わずニヤニヤしてしまうことは必至ですので、ぜひ楽しんでいただければと思います!かんざきさんからも一言預かっております!
かんざきひろ:超がんばりました、自信作なので皆様よろしくお願い致します!!
伏見:今回は、グッと手に取りやすいタイトルにしましたのでご安心ください! 勢いのままにテンポよく読めるラブコメを目指しました。新シリーズ、楽しんでいただけたら嬉しいです!
───(笑)。本日はありがとうございました。
取材・文:かーずSP
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